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大阪高等裁判所 昭和61年(ネ)1334号 判決 1989年4月28日

第一三三四号事件控訴人・第一三九五号事件被控訴人(B事件第一審被告・D事件第一審原告)

松 村 勝 正(以下「松村」という。)

第一三三四号事件控訴人・第一三九五号事件被控訴人(B事件第一審被告)

熊 澤 大 介(以下「熊澤」という。)

右両名訴訟代理人弁護士

北 村 義 二

第一三九五号事件控訴人・第一三三四号事件被控訴人(B事件第一審原告・D事件第一審被告)

関西単一労働組合

(以下「組合」という。)

右代表者執行委員長

吉 田 宗 弘

第一三九五号事件控訴人・第一三三四号事件被控訴人(B事件第一審原告)

朴   時 夫(以下「朴」という。)

第一三九五号事件控訴人・第一三三四号事件被控訴人(B事件第一審原告)

田野尻 聖 子(以下「田野尻」という。)

第一三九五号事件控訴人・第一三三四号事件被控訴人(B事件第一審原告)

廣 部 文 樹(以下「廣部」という。)

第一三九五号事件控訴人(D事件第一審被告)

白 川   忠(以下「白川」という。)

右五名訴訟代理人弁護士

井 上 英 昭

甲 田 通 昭

竹 岡 富美男

藤 田 正 隆

中 道 武 美

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

第一三三四号事件の控訴費用は松村及び熊澤の、第一三九五号事件の控訴費用は組合、朴、田野尻、廣部及び白川の各負担とする。

事実

第一  申立

(第一三三四号事件について)

一  松村及び熊澤

1 原判決B事件中松村及び熊澤敗訴部分を取り消す。

2 右部分につき、組合、朴、田野尻及び廣部の請求を棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも組合、朴、田野尻及び廣部の負担とする。

二  組合、朴、田野尻及び廣部

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は松村及び熊澤の負担とする。

(第一三九五号事件について)

一  組合、朴、田野尻、廣部及び白川

1 原判決B事件中組合、朴、田野尻及び廣部敗訴部分を、原判決D事件中組合及び白川敗訴部分をいずれも取り消す。

2 松村及び熊澤は、各自、組合に対し三二三万円、朴に対し四九万八〇〇〇円、田野尻に対し二七万円、廣部に対し四六万五〇〇〇円及び右各金員に対する昭和五五年九月一三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3 松村の組合及び白川に対する請求を棄却する。

4 訴訟費用は第一、二審とも、B事件について生じた分を松村及び熊澤の、D事件について生じた分を松村の各負担とする。

5 2につき、仮執行の宣言

二  松村及び熊澤

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は組合、朴、田野尻、廣部及び白川の負担とする。

第二  主張及び証拠

次に訂正、付加するほか、原判決事実摘示中、B事件及びD事件の本件当事者に関する部分(引用にかかる部分を含む。)、並びに証拠に関する部分と同一であるから、これを引用する。

<中略>

二 組合、朴、田野尻、廣部及び白川の主張の追加

1  松村及び熊澤は、当時、大阪地本の組合役員でありながら、労務屋集団である守る会と人的・物的に深いつながりを持ち、闘う労働組合が結成されるや、小林木村家事件、ECC外語学院事件、中外日報事件等々に見られる如く、資本の意を受けて第二組合を結成させ、スト破り、組合の組合員に対する暴力的対応によって資本と第二組合の双方から闘う組合の破壊をしてきたものであり、B事件不法行為もこれらと全く同一の悪質な組合つぶし事件であって、B事件不法行為を構成する各事件は、それぞれが別個の事件ではなくして一連の事件である。実際、手紙事件は昭和五四年一〇月一九日に発生し、組合事務所乱入事件、吉田宅抗議事件及び朴宅脅迫事件はいずれもその翌日である二〇日に発生しているものであり、右の如き組合及び黒川分会に対する一連の攻撃が相互に何の連絡もなく、たまたま同一日時に実行されたとは常識的にも考えられず、B事件不法行為を構成する各事件を単に労働組合間の対立抗争と捉えることは、正鵠をえていない。

2(一)  D事件は、極めて悪質な一一月五日事件における暴力当事者として糾弾されていた松村に対するものであるから、その事実認定は一層厳格にされなければならず、白川らにおいて多少の有形力の行使があったとしても、その程度は軽微なものであって、労働組合法一条二項所定の「暴力の行使」に当たらない。

(二)  また、労働組合は、社会的実体からすれば社団型の団体ではあるけれども、労働組合固有の団結活動については、民法四四条一項や七一五条一項の適用に親しまない。従って、D事件における白川の行為が違法なものであったとしても、それは組合の団結意思に支えられたものではなく、団結意思と無関係に行われた個々の組合員の派生的行為であるから、その責任は個人責任に止まるというべきである。

理由

一当裁判所も、組合、朴、田野尻及び廣部の松村及び熊澤に対する請求(B事件)、松村の組合及び白川に対する請求(D事件)は、いずれも原判決が認容した限度において正当として認容し、その余はいずれも失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次に訂正し、次項に当審における追加主張に対する判断を付加するほか、原判決の理由説示中B事件及びD事件の本件当事者に関する部分(但し、引用にかかる部分を含む。)と同一であるから、これを引用する。

<中略>

二1  組合、朴、田野尻及び廣部は、B事件不法行為につき、手紙事件が昭和五四年一〇月一九日に、組合事務所乱入事件、吉田宅抗議事件及び朴宅脅迫事件がいずれもその翌日である同月二〇日にそれぞれ発生していることなどからして、松村、熊澤が会社及び守る会の山村らと一体となって実行した組合つぶし事件であって、労働組合間の対立抗争に止まらないなどと主張する。確かに、山村らが実行した手紙事件及び組合事務所乱入事件、並びに松村らが実行した吉田抗議事件は、二日の間に相次いで実行されたものであるけれども、右に認定し或いはそれから推認される如く、それぞれの行為は、組合及び黒川分会がほぼ時期を同じくして実行した抗議及び非難活動、即ち、山村及び黒川専務の関係においては第一次街宣活動、松村及び熊澤の関係においては同人らを全国一般の腐敗分子であるとする非難活動に対する対抗手段ないし反動として実行されたものであり、それぞれに独自の動機を有することからして、B事件不法行為が二日の間に相次いで実行されたことの故に、松村及び熊澤が会社及び守る会の山村らと事前共謀のうえ、一体となって実行した組合つぶしであるとの事実を推認することはできない。

2(一)  組合及び白川は、D事件につき、極めて悪質な一一月五日事件を惹起した松村に対するものであるから、その事実認定は一層厳格にされなければならず、多少の有形力の行使があったとしても、その程度は軽微なものであって、労働組合法一条二項所定の「暴力の行使」に当たらないと主張する。その主張の趣旨は必ずしも明瞭ではないけれども、松村は白川らのD事件不法行為により傷害を被ったものであるから、同法八条の正当なものと評価できないことは明らかであり、その主張の趣旨が一一月五日事件が存在したことの故に、D事件につき、事実認定を殊更厳格にし、法的評価を殊更緩やかにすべきであるものとすれば、かかる主張は合理性のないものとして採用し難いところである。

(二) また、組合及び白川は、労働組合固有の団結活動については、民法四四条一項、七一五条一項を適用すべきではない旨主張する。しかしながら、労働組合法八条の反対解釈からして、労働組合又はその組合員が損害賠償責任を負担することは疑問の余地はなく、労働組合法上、民法四四条一項、七一五条一項の適用を排除する規定は存在しないからして、合理的根拠の存在しない限り当然適用があるというべきところ(労働組合法一二条参照)、適用を排除すべきであるとの首肯するに足る合理的根拠を見出すことはできないし、右適用を排除したならば、法律上損害賠償責任があるにもかかわらず、責任根拠規定を欠くことになるため、いかなる違法の所為に及んでも結局のところ損害賠償責任を負担しないという不合理な結果を容認せざるをえなくなるので、採用し難いところである(なお、労働組合の争議行為が集団的活動であることを根拠として、右各条項の適用を否定する見解が主張されているようであるが、右見解の意図するところは、組合及び白川の主張の趣旨に反し、組合員の責任を否定することにあり、労働組合自体の責任は肯定的に解するものである)。そして、白川のD事件不法行為につき、組合が民法七一五条一項に基づいて責任を負担すべきことは、前示のとおり(原判決二〇四枚目表一行目から二〇五枚目表五行目までと本判決一の92)である。

三以上によれば、原判決は相当であって、松村及び熊澤の第一三三四号事件控訴及び組合、朴、田野尻、廣部及び白川の第一三九五号事件控訴はいずれも理由がないから、失当として棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官舟本信光 裁判官渡部雄策 裁判官井上繁規は、転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官舟本信光)

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